03.メインフレーム・コンピューターのアーキテクチャ

メインフレーム・コンピューターにおけるアーキテクチャーは、コンピューター・システムの根幹となる考え方で「設計思想」と呼ばれます。ハードウェアとしての個々のメカニズムがどのような機能を持ち、どのように連係してシステムを構成するかを詳細に取り決めたものです。CPUの命令セットもこの中に含まれます。コンピューター・システムに明確にアーキテクチャーが打ち出されたものが、最初の汎用コンピューターでもあるIBM社のシステム/360です。現在にも続くシステム/390やz/アーキテクチャもまさにこの設計思想のことで、プロセッサーやチャネルなどシステムを構成するハードウェアはアーキテクチャの実装製品です。

アーキテクチャーは実装可能な設計ですから、テクノロジーの進化の影響を受けます。CPUが64ビットになり、メモリーがギガ・バイト単位の容量を持つことを前提にしたアーキテクチャーが生まれた背景には、それらが技術的にも価格的にも実現可能になったからです。オペレーティング・システムはアーキテクチャーに含まれませんが、アーキテクチャーに基づくコンピューター・システムの性能を最大限に引き出し、機能を十二分に利用して、最高の生産性を上げるために不可欠なものです。また、オペレーティング・システムを変えることによって、汎用機としあらゆる用途に適用できるメインフレーム・コンピューターを、特定の用途に向いたシステムとして運用することもできますし、ハードウェア同様にあらゆる用途で利用できるシステムとして運用することもできます。

システム/390(ESA)アーキテクチャー

IBM社のメインフレーム用32ビット・プロセッシングの最終アーキテクチャーです。ESA(エンタープライズ・システムアーキテクチャー)と呼ばれ、プログラムだけでなくデータ専用のアドレス空間がサポートされ、メモリー上で扱えるデータ量は最大で16TB(テラバイト)に拡張されました。1つのアドレス空間は従来通り最大2GBの大きさですが、データ専用の複数の空間を組み合わせることでメモリー上のデータ量を増やしたのです。1990年代のアーキテクチャーで、ES/3090シリーズ、ES/9000ファミリーなどの主力プロセッサーが使われました。

zアーキテクチャー

IBM社のメインフレーム用64ビット・プロセッシングのアーキテクチャーです。z/Architecture(ズィー・アーキテクチャ)と呼ばれ、ハードウェアもOSも新たに64ビット・プロセッシングをサポートするために一新されました。対応するハードウェアが System z、OSが z/OSです。64ビットCPUが採用されていますが、互換維持のため従来の32ビット命令には変更がありません。64ビット機能に関しては、主に拡張された新たな命令で動作します。メモリーアドレスも64ビットアドレッシングであれば16ExaBに拡張されています。ただし、従来のプログラムの動作を保証するため、CPUのアドレスモードは、24、31、64と3つの動作モードが用意されます。もちろん1つのモードに固定されることはなく、それぞれ動かすプログラムの必要に応じてダイナミックに切り替えられます。そのため古くからあるプログラムも新しく64ビット用に作成されたプログラムも同時に実行することができます。

FACOM Mシリーズ・アーキテクチャー、HITAC Mシリーズ・アーキテクチャー

FACOMは富士通社の、HITACは日立社のメインフレーム・コンピューターです。歴史的な経緯から政府(当時の通産省)の指導によりグループ化された両社によって開発されたIBM互換機がMシリーズです。FACOM、HITACいずれもIBM社のS/370アーキテクチャーおよびOSであるMVSとの完全互換機、互換OSとして登場しました。現在では富士通のFACOMはGS21シリーズとMSPへ、日立のHITACはAP8000シリーズとVOS3/USへと進化していますが、いずれもS/370およびS/390アーキテクチャー・ベースの互換機および互換OSで、今でもMシリーズ・アーキテクチャーとして受け継がれています。

その他のメインフレーム・アーキテクチャー

メインフレーム・コンピューターの世界での事実上の世界標準はIBM、日本ではこれに富士通、日立が加わります。世界的にはIBMの他にUNIVAC(現UNISYS)、国内ではNECのACOSがあります。UNIVACはIBMのS/360対抗機としてもシェアを伸ばした時期がありますが、S/370以降のIBMの敵ではありませんでした。しかしUNISYSは今でもUNIVACからの流れを組み、メインフレーム・クラスのコンピューターを提供しています。またメインフレームOS(OS2200)とWindowsやLinuxを同じ筐体で同時に動かすCMP(Cellular Multi Processing)というアーキテクチャーを提供しています。ACOSは富士通・日立によるIBM互換機としてのMシリーズとは別に、日本電気と東芝によるグループで開発されたものです。NECはハネウェル社と、東芝はGE社と提携し、それぞれNEACおよびTOSBACとして独自のコンピューターを開発していました。ACOSはそれらの流れを組んで1970年代半ばにIBM対抗機として開発されました。ACOSは現在でも独自の進化を続けていて、国内では比較的多くの、しかもそうそうたる名前のビッグな企業で基幹系システムとして使われています。金融機関の勘定系システムや航空管制システムなどにも使われています。

以下、歴史的なものとして知っておきたいアーキテクチャ

システム/360アーキテクチャー

IBM社が1964年に世に送り出した、今日の大型汎用コンピューターの原型となったアーキテクチャーです。用途によって機種やOSを作ったり、機種毎に異なっていた命令セットやアドレッシングのビット数などを統一し、360度方向どのような業務分野にも適用できるようにと設計されました。32ビットCPUの採用(ただしプログラムでアドレスできるメモリーは最大24ビット)、1バイトを8ビットで構成したバイト単位アドレッシングを採用、EBCDIC文字セットの採用、マイクロ・プログラムによって浮動小数点や文字列などの複雑な処理もCPU命令で行えるようになった、等が特長です。対応するOSとして、OS/360(MFT,MVT)、DOS、CMSなどがありました。

システム/370アーキテクチャー

S/360に続くアーキテクチャーで、複数のアドレス空間(メモリー空間)、仮想記憶機構および複数個のCPUをサポートした今日のメインフレーム・システムの基礎となったものです。対応するOSの代表格がMVSで、現在のz/OSにも続いています。富士通のMSP、日立のVOS3が代表的な互換OSです。1970年代から1980年代前半までの主となるアーキテクチャーです。

システム/370拡張アーキテクチャー

S/370を拡張したもので、プログラムでアドレスできるメモリーを最大31ビットにして2GBバイトのメモリー・アクセスをサポートしました。またディスクやテープ装置への入出力経路をCPU側(OS)でなく、チャネル自身に行わせる動的チャネル・サブシステムを採用してI/O効率を向上させています。MVSもMVS/XAとしてエンハンスされました。富士通と日立もそれぞれ、MSP/EX、VOS3/ES1として追随しています。1980年代後半の主力アーキテクチャーとして使われ、メインフレーム・コンピューター全盛時代を担いました。